星見司処

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■514 / 2階層)  SS
□投稿者/ クレール ファミリー(163回)-(2011/07/21(Thu) 19:18:34)
    2011/08/01(Mon) 14:01:44 編集(投稿者)
    2011/07/28(Thu) 00:19:34 編集(投稿者)

    ○伝説の復活
    夜が来る。
    夜を守るのは猫神族の役目だった。
    そして、子供たちがおやすみなさいをした後には、竜が飛ぶのだった。

    T16のはじまったあくる夜、森の王宮から飛び出した影があった。
    神殿や東国にあるという瓦ぶきの城の屋根すらも飛び越えかねない速度で夜の闇を走り抜ける影は、二つある。

    一つは、木々を伝って宙を駆ける絹の服装。黒を基調に染め上げられた無駄のない衣服は、
    10以上も昔のターンからNWに認められてきた、ドイツをモチーフとするゲルマン忍者の衣服である。
    防具らしいものは頭環の代わりに額当てを身につけているだけだ。
    とはいえ額当ては最近の忍者達の流行りで、身に着けるオシャレであるため、防御力はさほど期待できない。
    しかし、火線に晒されれば裸同然の防具よりも目を引くものがある。
    それは、人の丈とも変わらない、巨大剣である。
    殆どを木でつくられたそれは、木刀というよりは木の棒、木の棒というよりはオールと言ってもいい。
    それを背負う、やせぎすの男が、木々を駆け抜けていた。

    もう一つは、地上の落葉を蹴って走る尻尾を持つもの。つややかな毛並を纏い、駆ける姿でなお偉そうな威厳をなお保つそれは、
    るしにゃん王国に名高い、人間の猫神使いとパートナー関係を結ぶ、猫神族の1柱であった。
    しかし、その姿は「肩に乗せた猫」とするにはやや身体が大きい。
    二つの影は上と下とで離れていたが、やがて距離を詰め始める。声がきこえてきた。

    「……戦場はこの先であってる?」
    「夜目も利かぬ鈍感な人間は黙って儂の道案内に従うがいい。」
    「世界忍者は夜間戦闘ができるんだ。それに、長い耳で音はよく聞こえる。」
    「それはよかったな。じゃあ急げ。」
    「今日のためにダイエットして脱デブ猫してよかったね。」
    「たわけ、ぽっちゃり体系でも十分早いわ。」

    一瞬、悪そうな目つきでにらむ一人。そしらぬ顔の一匹。
    二つの影はさらに速度を上げると、目指す先である、森の外れへ一直線に向かった。

    /*/

    深い森を抜けようとするころ、二つの影は探し求める姿を見つけた。
    「……見えているな。挟み込むように前に出るぞ。」
    「OK。じゃぁ僕は右からいく。」
    「にゃー。」

    二つの影は左右に分かれると、迂回する軌道をとって森を抜けた。
    月光に晒され、光の粒を散らすように煌めく長い髪。忍者の男は背に負う大剣に手をかけながら、声をあげた。

    「そこまでだ、あしきゆめたちよ。」
    決意と覚悟が乗り、悪そうなを越えて鷹のようになった目は、草原を渡り、森へ向かおうとする不死者の群れを見つめていた。
    「この森に入ることは、僕が断じて許さない。」
    「昼寝を邪魔するものは容赦せん。小僧、行くぞ!猫突撃!」
    「おお!」

    それは、伝説のような戦いであった。
    猫神族の口元にどこからともなく現れた猫用の巨大剣は、左翼から不死者を切り裂き、
    竜猫の青年は振り下ろす大剣で右翼から群れを切り崩す。
    たった二つの儚い光の前に圧倒的に広がる闇の群れ。あたかも世界の終わりを示すようなその後継だが、それでも光は懸命に闇を押しとどめていた。

    『フフフ、人中の竜……いえ、いまだかわいいトカゲ、といったところね。』
    不意に、身体を砕かれ不死者であることをやめた死体の口から人の声があがった。
    「!?」「落ち着け、ただのメッセージだ。気を抜くな!」
    『あらあら、猫ちゃんもいるのね。ご苦労様。』
    「誰だ!」
    『初めましてぼうや。私はこの不死者たちの召喚者。私の邪魔をしないでくれるかしら?』
    「断る!るしにゃんの森を不死者の王国になんかさせてたまるか!」
    怒気をはらむ声と共に2閃3閃、不死者はさらに薙ぎ払われていく。
    『その威勢……嫌いじゃないわ。ふふ、夜明けまでせいぜい頑張ることね。』
    楽しそうな余韻を残しながら、人の声がやむ。
    「くそっ、負けるもんか!」
    明らかに力みすぎな振りかぶりから剣を横なぐ青年。
    重心がずれて、一瞬行動のテンポが遅れる。大軍相手には致命的な一瞬。

    捌ききれない攻撃が来る刹那、青年のではない大剣が目前の腕を薙ぎ払った。
    「さっきから焦りすぎだ。勇気と無謀を間違えるな。」
    剣で掃うと同時に猫神族が着地して青年に苦言を呈する。
    「……ごめん。」
    青年には、返す言葉がなかった。
    「猫の構えをとれ。教わった構えもせずに攻撃に出るなど十年早い。うまく剣をつかえ。」
    「わ、わかった。」
    改めて青年は、ずっと学び、鍛えてきた攻めの構えを取った。猫神族も合わせるように剣を持ち直した。
    再び襲い掛かろうとする不死者の群れを前に、猫神族は声をかける。
    「たしかにお前はまだ竜にもなれていないかもしれん。
     わしとて偉大なるブータニアス卿らと比べれば乳離れした子猫も同然よ。
     だが、偉大なる方々の持ちえぬものを我らはもっている。…わかるな?」
    きっと最後の一文は何度も繰り返されてきた問答なのだろう。青年は迷いもなく答えた。
    「僕達は成長する。未来をみることができる。」
    平静を取り戻しつつある青年に満足するように、猫はうなずいた。
    「そうだ。膝を屈するな、目を閉じるな、前を向いて歩け。丸まって眠るのは老いてからでもできる。」
    そして、再突撃が始まった。
    教えられた構えから繰り出される一撃は、遠心力と重心の移動を最大限に活かし、順番に、そして確実に致命傷を与えていく。

    一撃の合間を縫うように、青年はつぶやいた。
    「諦めなければいつか夜明けは訪れる。」

    合図と感じ取り、猫神族は合わせるように鳴いた。
    「今宵の絶望に満ちた夜もやがては明けるだろう。」

    対多数戦の鉄則は機動力。それを守るように青年は一撃を加えるごとに前転し、あるいは半歩横にずれて別の方向に大剣を薙ぐ。
    「うん。それこそは森の循環。絶対不変の自然法則」

    猫神族の歩みは大剣をパートナーに舞う踊りのようだった。まるで、戦いと芸事が1つであったころのように。
    「我らは絶技を使わねど、この身技にて安らかな眠りを守ろう」

    青年の裂帛の気合いで踏み込む足は、胸打つ手の代わりに大地を鳴らした。
    「それこそは世界の守り、守りの守り、守りの守りの守り。それはここに。このなかに」

    互いの一歩で立ち位置を何度も入れ替え、螺旋を描くように一人と一匹は戦場を渡り歩く。
    それはまるで小さな竜巻にも似て、襲い掛かる不死者の群れの悉くを駆逐していった。
    勇気を紡ぐように彼らは詠い、何度も剣を振りかぶる。

    そして。1刻に近い時を経て、最後の1体が倒される。
    今や、動くものは竜猫しかいない。
    土とケガにまみれ、剣を杖に、肩で息をする青年。
    その隣で、猫神族は、朗々と、声をあげた。
    「生死の境界を違えし闇のものどもよ、退くがいい。
     夜明けは来たれり。お前達の敵が、今ここに帰ったぞ。」

    彼らは気がついていた。この局所的な勝利だけでは、森を守ることはできないと。
    今や不死者の流入は止まらない。彼らは、たった3ケタに上るうちの数部隊を退けただけなのだ。
    それでもいつか第七世界人が気づいて、共和と帝国から結集させる圧倒的な力で全てを助けてくれるまでの時間稼ぎにはなる。
    でも、だからこそ、彼らは声を上げたのだ。
    これ以上、好き勝手にはさせないという反撃の意志を示すために。

    「……今は小さいかもしれないけれど。いつかきっと。」
    「生き延びれば、いい夜明けがみられるときがあるだろう。そのときまでの辛抱だ」
    「うん。 ・・・帰ろう。家に。」

    そうして一人と一匹は、誰にも気づかれない戦果を上げて、家路についた。
    竜と猫は皆の眠る夜を駆けるがゆえに、彼らの戦いを知る者は多くない。
    だが、彼らの戦いは、確実に夜の平和を守っているのだった。
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