| 2008/10/16(Thu) 15:58:05 編集(投稿者)
○それを戒める心
テックレベルオーバー、世界を壊しかねない技術。 未だその明確な定義すらも分からぬまま、ニューワールドの技術はそこに至ろうとしている。 そしてその幻影は、ついにるしにゃん王国にも姿を現した。 精霊機導弾のころより能力が知られてきたこの「古い」現象もまた、TLOであったのである。
るしにゃん王国の魔法使い達が世界移動存在として帰還を果たしてからしばらくの事。 彼らは研究の中でひとつの事実を気づくにいたる 「住む世界を放棄する方法とも言える世界移動。これを世界に住む全ての人間が行えば、人によって定義される世界はその姿を失い、崩壊してしまうことになる。 そして、あらゆる世界で等しく行える世界移動能力はテックレベルの限界を超えているのではないか?」 人を傷つけない方法として魔法使いが手に入れたはずの世界移動能力が、今度は世界を傷つける。 この事実の深刻さは、すぐに殆どの魔法使いが理解した。 TLOによって世界が壊れるのを嫌うゆえに人を滅ぼそうとする竜がいるからではない。 ふるさとを焦土にした何かに、自ら歩み寄ってしまったのだ。
しかし、その事実に心が痛めば痛むほど、悲しみが深ければ深いほどに、 まるで何かのおとぎばなしのように、彼らはなにかを探しはじめた。 自らを正当化するためでなく、同じ立場に陥ってしまっているだろうどこかの誰かを助けるために。 その時を重ねること1Tにして、彼らはひとつの文章をまとめあげる。
「星見司として、あるいは魔法使いとして、風を追うすべを追い求めた場合、 その究極は自らの目で他世界を見ることができる世界移動能力であることは自明の理であり、 るしにゃん王国の一部の魔法使いがそうしたように、飽くなき探求の果てに見出す可能性のあるものである。 つまり、世界移動能力の封印はすなわち世界の謎の探求を止めるに等しく、それは星見司の死を意味するのではないだろうか。」 「世界移動能力がTLOであり、またそれを封印する手立てが厳しいものであるのならば、 それを習得・封印するか否は個人の知識,探究心,そして才能に任せる以外にないと思われる。 その上で能動的に能力を平等あるいは無差別に伝承することを禁じ、 行為は心によって抑制をすればよいと、我々は考える。」 それが答えであった。 奇しくも知恵者の言葉と類似していることに、偶然以上の意味を汲み取ることは容易であろう。
ある研究者は るしにゃん王国において世界移動能力を保有するのは魔法使いだけであり、 心優しい彼らがそれを悪事に使うということは考えられず、 また魔法使い達の本領である詠唱行為は物理域に制限があるため、 魔法使いが世界移動能力を獲得するだけではTLOとはならない という見解を示している。
しかし魔法使いが悪に染まる可能性は否定できず、また魔法使い達とは出自を異にする世界移動存在が出現することは十分に考えられることである。 そのためるしにゃん王国は法という形で能力に鎖をかけることにしたのだった。
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○世界介入条項批准のお知らせ るしにゃん王国では神聖同盟の世界介入条項を批准し、 世界移動能力者に対し以下の条項を施行することを決定しました。
1.世界介入を可能な限り避ける 2.世界介入をする場合は現地の人間に可能な限り解決させる 3.現地のものを可能な限り傷つけない。現地に影響や記憶を残さない 4.これらを護るためにシオネアラダと約束だ。この世の誰のためではなく、ただ貴方の心を護るのだと 5.シオネアラダを信じぬのなら、自らの子の心を護るのだと、約束しましょう。
これらが破られた場合は刑罰の対象となりますのでご注意ください。
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最後に違う字体・文体で記された、明らかに蛇足と分かる第5項は、 政庁の誰かは不明なれど、王国民のために加筆したものであることは明らかである。 それは学校の生徒であり、同居する弟子であったり、あるいは近所に住む悪ガキかもしれない。(もちろん実の子でもいいわけだけれど) その子らを悲しませないため、そして世界を壊さないために。 魔法使い達は世界移動能力を用いるたびに条項を思い出しては改めて心に刻むのである。
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