るしにゃん王国

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■2642 / 1階層)  SS:試験と訓練
□投稿者/ クレール 一般人(24回)-(2011/07/05(Tue) 05:30:20)
    #強弓のページに掲載用のSSです。

    「俺の要求をのまねえとこいつの命はねえぞ!」
     森に不穏なダミ声が響く。その声の出元は外れにあるボロボロな掘っ立て小屋からだった。
    窓から、いかつい男とかよわそうな女が、顔を出している。男は怒りに、女は恐怖に歪んでいた。
    男は左手を女の腰に回し、右手に鈍く光るダガーを持って女の首にあてていた。
    強盗か、誘拐か。何にせよ、立てこもる男をうかつに刺激すれば、惨劇はさけられなかった。

    「おとなしくサレンダーするにゃ、今なら3ヶ月くらいの労役ですむにゃ!」
    とりどりの姿をとる猫士の警官が、とりおさえと焦点具を兼ねる杖を振り回して負けじと説得の声をあげる。
    「うっるせえ!ごにょごにょ怪しい言葉を口走ってみろ、魔法になる前に血しぶきでお前らを赤猫にしてやっぞ!」
    「ひゅい!?」
    交渉も強情に応じない。威嚇もきかない。完全な膠着状態であった。

    /*/

    その地から500m程はなれた場所に、るしにゃんの民がいた。
    「みつけた?」
    ひとりは、中性的な雰囲気を見せる少年で、冷静に周囲を警戒している。
    「ああ、猫士達に完全に注意がいってる。」
    もうひとりは、やせぎすの身に森国人らしかぬ鍛えた身体をもつ男だった。目を細め、枝の上から木々の合間から小屋をみすえている。
    「悟られないように気をつけて」
    「大丈夫さ、俺ら、地味で空気な定評のあるるしにゃんの民だぜ?」
    おちゃらけて冗談を飛ばす拍子にきしみだす枝。
    「枝が揺れてる」
    「うわ、やっべ。」
    男は体勢を崩しながら、慌てて今の枝から急ぎ場所を変える。少年も後を追う。
    足音をたてない迅速な身のこなしは、彼らが忍者を源流とする技術を持つことを示している。
    少年は肩に猫を背負い、男は大弓を背負っていた。

    やがて彼らは、少し離れた地上の茂みの手前に伏せる。
    「……バレて、ないよな?」
    男が少年の顔を見る。今度は少年が偵察する番らしい。
    「…大丈夫みたいだ。ボクの猫神様がそう言ってる」
    「よし、じゃあやるか。手えかしてくれ」
    弓を少年に渡し、手早く髪を結って手袋をはめていく。
    少年も器用に弦をとりだし、弓に張る準備をしていく。
    「カンパウンド?」
    「んにゃ。滑車はいらね。フックだけつけてくれ。」
    「時間かけてしっかり狙うなら、つけておいたほうが……」
    「あれは女子供がやるもんさよ。長弓兵で鍛えたパワーのある俺ならかっくいーフックだけでいいんだよ。」
    「はいはい。」
    そうこういっている間に二人で弓を押し、弦を張り終える。右手の手袋の状態を確認すると、矢筒から一本の矢を選んでとりだした。
    矢羽の代わりに蔓をまきつけ、鋭いの鏃の代わりに木彫りの蕾のようなものがついている。
    「ほんとにこれ効くのか・・・?」
    「大丈夫、魔法はちゃんとついてるよ。それより時間、急いで」
    「へーい。あ、そのまえに、体力回復してくれ。」
    「わかった」

    回復を終えたところで、男は静かに足場を固め、弦に矢を番える。
    小屋の窓を見据える横顔から、さっきまでのおちゃらけた雰囲気が消えた。
    矢を番えた弓を掲げ、胸元に引き寄せるように下ろしながら、弦を引き、弓幹を押す。
    唇の高さまで矢の位置が下がると、腕の動きは静かに止まった。
    その姿には、静と動が内包されている。
    外面は時が止まっているようで、男は弓との間で押し広げる力と元に戻す力をせめぎあわせ、競い合っているのだ。
    やがて、その静と動の均衡の末に、男の心からは周りの全てが消えていく。
    集中の中の集中。その先にある無の境地を目指し。
    そして。

    /*/

    それは一瞬の事だった。
    いかつい男が気がついたのは、誰かに右肩を叩かれたかのような感覚だった。
    しかし、小屋にはいかつい男と人質の女がいないはず。侵入されたかと振り向く刹那、カランと、小屋の隅と足元で床をたたく音がした。
    そしてただよう、人質の女からではない香り。
    「梅の…花……」
    たてこもる男の意識はそこで途切れた。身体が傾くなか、最後に一瞬目に映るのは、我先に突撃する猫士達の姿だった。

    /*/

    弦から右手を離した姿勢を崩さず、静かに男はつぶやく。
    「……よし。」
    弓を下ろして、首を回しながら、おちゃらけた雰囲気が戻ってくる。
    「うんうん、よし、訓練おわりーっと。……どした?」
    見やれば、少年が両手を硬く握って、頬を紅くしていた。
    「おーい。」
    顔の前で二・三度手を振る。ようやく我に返る少年。
    「え、あ、え、お、おわったの?」
    「ああ。大丈夫か?」
    「は、はい、だ、だいじょうぶです。」
    「んじゃ、合流しようぜ。」

    二人が、正確には男にやや遅れて少年が小屋に到達すると、立てこもり犯の男の縄が解かれ、起こされているところだった。
    「だいじょうぶかにゃ? 訓練終了だにゃ。」
    「ん・・・う・・・、ああ、うまくいった・・・みたいだな。」
    立てこもり犯は猫士達に丁重に介抱されている。
    男が、彼に声をかけた。
    「おっさん、大丈夫か?」
    「おっさんじゃない、課長と言え! 後遺症はないよ。まあ、効きが弱かったか?それくらいだ。」

    今回の真相、それは、凶悪事件ではなく、単なる警察の訓練活動であった。
    「なんだ、やっぱ使えねえじゃんこれ。」
    「お前の狙いが甘くてかすってしかおらんのだ! まだなれとらんのに、カンパウンドをつかっとらんのだろう、テストなのを忘れたのか、ばかもんが!」

    さらには、強弓の運用試験も兼ねている。弓と、治安維持用・不殺用に開発された矢が実際に使えるかどうかを試していたのだ。
    「だって・・・なあ? まぁ、今回はうまくいったからいいじゃん。 な!」
    少年に肩を回す男、なぜか顔を紅くする少年。
    「お前に色恋はまだ早いわ、もっと精進せい! できんのなら素直にあるものをつかえ!」
    「なにいってんだよ。おれが女おっかけてるとでも?」
    「……本気で言ってるのか? そいつは女だ。しかもお前より年上。」
    「え? まじで?」
    目を点にして猫神使いの少年・・・もとい、女の顔を見る男。彼女は、赤らめながら、しかしうわべだけは冷徹に言い放った。
    「まじです。死んでください、このとーへんぼく」
    どこからともなく大剣を取り出す猫神使いの女。
    「え、しかもおま、ただの猫神じゃなくて竜猫かよ!」
    「はい。あなたよりも筋力ありますから」(にっこり)
    「それにな、お前またはしゃいどったろう。枝が揺れるのがわかったぞ。全部まとめて性根をたたきなおしてもらえ!」
    「ひい! か、かんべん〜!」

    真面目な日常の訓練、そして新しいものの発見と研究。おまけにラブコメのような一幕。
    今日もるしにゃん王国はいつもどおりであった。 
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