るしにゃん王国

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■2621 / 1階層)  SS:参加くじ拾遺
□投稿者/ クレール 一般人(5回)-(2011/05/18(Wed) 22:56:48)
    2011/05/18(Wed) 23:00:06 編集(投稿者)

    「お届け物でーす。こちらにハンコかサインをお願いしますー。」

    その日は珍しくるしにゃん王国の王宮に個人宛の宅配物が届いた。
    受取人すら疑問符がついている。

    「…何か注文した覚えはないのだけれど…。送りつけ詐欺…でもなさそうだし。」

    誤配かもしれないと慎重に包装を開き、小箱の深い上蓋を開けると、中には円筒形の小物が入っていた。
    シンプルな中に使いやすさを凝縮したようなデザイン。ビジネスツールのようなデザインだ。

    「ペン、かしら?」

    いろいろ触ってみると伸縮自在の構造のようで、中から芯があらわれる。
    捨てる紙を使ってためし書きをしてみると、驚くほど鮮明に、かすれもにじみもなく書くことができた。

    「ふぅん。結構私にあいそう。これ、いいかも。」

    一風変わった運指でペンの端に手先を移し、手帳に挟んで収納する。
    覚えはないし銘も入っていないが、名前の間違いでもないだろうし、詐欺だとしてもマイルをとるほどでもなさそうだ。
    とりあえずは手元においておこう。
    そう考え、彼女は席を立ち次の仕事へと部屋を去る。

    扉が閉まるのと、試し書きした紙が不可思議に切れたのは、ほぼ同時であった。

    /*/

    森の中をみて回るなか、不可思議な魔法使いの老人と会った。
    どうも、近くの村を広げるために行う計画的な間伐らしく、後で伐る木にマークをつけて回っているらしい。

    「よかったら御手伝いしましょうか?」
     「助かります。・・・あなた、王宮の人では? お使いなら急いだほうが。」
    「あ、いえ。お休みをいただいてきたところなんです。」
     「そうですか。ではお願いします。色をつけるものは?」
    「ペンでよければありますけれども。」
     「木に書けるならそれで。それじゃ、この木と、そっちと・・・。」

    手帳からペンを取り出し、インクを走らせる。紙ではなく木の皮なのに、線の鮮明さは紙と全く変わらなかった。
    3本目の木に差し掛かる頃、みしみしと不思議な音がした。
    二人が振り向くと、一本目と二本目の木が相次いで倒れ掛かってくる。

     「!?」
    「二歩下がって!」

    彼女の助言に老人は従うと、彼のもといた場所に二本目の木が音を立ててタッチダウンする。
    一本目の木は逆の方向に倒れたため、特に危険はなかった。
    何が起きたのかと恐る恐る近づいて調べる二人。
    倒れた幹の切り口は、驚くほど鮮やかであった。

     「切断の魔法を使ったので?」
    「いえ、私はこのペンで書いただけですが…。あれ?」

    彼女が良く見ると、倒木にも切り株にもペンの跡はない。どころか、変な高さをもって倒れていた。
    まるで、彼女の胸の高さに近い、あたかも線を書いたような――

    「……え、ええっ!?」
     「どうしました?」
    「あ、あの、いえ、ごめんなさい。3本目からはあなたの筆を貸していただいても?。」
     「わかりました。・・・なんなんですかねぇ、これ。」

    なんとなく原因を察した彼女は言葉を濁すよりなかった。

    /*/

    自室に帰ってきた彼女は試し書きの紙が変な形に切れているのを見て、得心する。

    「…これ、書くためのペンじゃないのね。」

    試しに別に届いていた封筒の一辺をペンで色をつける。しばらくして、きれいに封筒が切れて中身を取り出せた。

    「なるほどね。でもどうしてこんなものを……。」

    そうして先ほどの箱を持ち上げると、包装との間に封筒が出てきた。
    丁寧に包装をはがしていった結果、箱を反対から明けていたらしい。
    どうりで、フタのほうが底が厚いなんて珍しいことになっていたわけだ。
    封筒の中はお祝いの言葉とペンの取り扱い説明書が入っているようで、
    箱の底と思っていた本来のフタには、紙が貼られていた。

    <T16と私参加賞くじ2等景品在中>

    と。

    /*/

    後日。彼女は知り合いにこう話したという。

    「すごいですよね。カッターナイフ使うの苦手だから、助かります……!」

    天然!と盛大にツッコまれたが、彼女は平然と受け流している。
    だってこれはペンなのだから、文具として使うのが正しい。
    どんなにすごい使い道があっても文具の使い方でなければそれはあくまでおまけで、
    おまけの使い方ばかりでは、道具もヘソを曲げてしまいますよ、と。
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